「知事の「不承認」を支持する住民の抗告訴訟」とは
2022年8月23日、辺野古・大浦湾沿岸住民ほか20名が原告となって、国に対する新たな訴訟を那覇地裁に提訴しました。2021年11月25日の玉城デニー知事による設計変更不承認を取り消した国交大臣の裁決は違法だとして、その裁決の取り消しを求める訴訟です。
沖縄県は同年9月30日、同様の内容で抗告訴訟を起こしましたが、私たち住民の訴訟はそれを補強し、県と一体となって国の違法性を追及し「不承認判断」の正当性を主張します。
国は前回(沖縄県の埋立承認撤回を取り消した)と同様、今回も、知事の不承認を取り消すのに性懲りもなく、行政不服審査法を使いました。国民(私人)の権利救済のための行政不服審査制度を国の機関が使うことに対しては、全国の行政学者から「違法」「法の濫用」など厳しい批判が上がっています。
「法治国家」と言いながら法を悪用して県民の民意を押しつぶす国のやり方は、民主主義にも地方自治にも反し、県民・国民全体を愚弄するものです。本来なら全県民・全国民が原告になってしかるべきです。どうか皆さん、自分も原告だと思って、この訴訟にご注目・ご協力をお願いいたします。
訴訟の経過
2020年4月21日 沖縄防衛局が沖縄県に対し大浦湾の軟弱地盤改良工事に伴う設計概要変更承認を申請
2021年11月25日 玉城デニー知事が設計変更「不承認」を沖縄防衛局に通知
2022年4月8日 国(国土交通大臣)が、沖縄県の「不承認」を取り消す裁決を行う
4月28日 国(国土交通大臣)が県に対し「是正の指示(=承認せよ)」を行う
8月23日 知事の「不承認」を支持する住民の抗告訴訟を提訴(国の裁決の取り消しを求める)
(原告は辺野古・大浦湾沿岸住民19人と大浦湾でダイビング業を営む那覇市民1人の計20人)
< 9月30日 沖縄県が国に対し、裁決の取り消しを求める抗告訴訟を提訴 >
2022年10月25日 第1回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
訴状要旨陳述:川津知大弁護士(弁護団事務局)
意見陳述:東恩納琢磨(原告団長)
*被告の国側は、前の裁判と同様、「原告適格がないから却下せよ」と門前払いを求める。当日は、この訴訟を我が事として関心を持つ市民の皆さんが傍聴席を埋め、勇気を頂いた。
2023年1月31日 第2回口頭弁論(那覇地裁101法廷にて)
原告弁護団より「原告適格」について要旨陳述、及び原告からの意見陳述
*原告20人中、19人は辺野古・大浦湾沿岸住民だが、今回意見陳述した岩本さんは、那覇市でダイビングショップを経営し、大浦湾に潜ったことをきっかけに、ダイビングを通じて大浦湾の素晴らしさを案内している。大浦湾の生物多様性や沖縄県内でも屈指のサンゴ群が地盤改良工事によって死滅してしまい、仕事を失う危機感を訴えた。国側代理人はともかく、真剣に聞いていた裁判長や裁判官の心に響いたことを願いたい。この日も傍聴席は満席だった。イッペー ニフェーデービル。
2023年3月23日(木) 第3回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*この日は原告・浦島悦子が意見陳述の予定だったが、その前日22日、裁判所に求められて事前提出していた陳述書の内容について「穏当でない」表現があるので、書き換えなければ陳述を許可しないと担当弁護士に連絡があった。前代未聞のことだ!! 「修正」を拒否して陳述しない選択もあったが、弁護団と相談のうえ、法廷で抗議しつつ陳述は行うことになった。裁判所に書き換えを指示されたのは4カ所。いずれも、国(行政)や裁判所のやり方に対し、「国家犯罪」「犯罪行為」「断罪される」と「罪」という言葉を使用した箇所だった。
以下の陳述内容は、「修正」前の原本に、書き換え箇所を明示したもの。また、この「裁判所による検閲」について、「沖縄タイムス論壇」に寄稿(2023年4月3日掲載)したものも併せて掲載する。
2023年6月13日(木) 第4回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*裁判所の意見陳述不許可に対抗
この日は原告・渡具知武清さんが意見陳述予定だったが、福渡裕貴裁判長は陳述を不許可とした。同裁判長はこの訴訟の2回目から原告意見陳述について、これまでになかった事前提出を求め、前回は陳述書の一部文言書き換えを要求(「書き換えなければ陳述を許可しない」)した。原告の表現の自由を侵害する「検閲」に対し、原告・弁護団は今回、裁判所に求められた事前提出を行わなかった。
「(陳述の)内容がわからないから許可できない」とする裁判長への対抗策として、弁護団は法廷で原告準備書面をすべて読み上げると通告(民事訴訟は口頭主義が原則だが、実際は書面のやり取りとなっている場合が多い)、第2準備書面を30分かけて読み上げた。第3準備書面は100頁以上あるため4時間以上かかると言われた裁判長は困惑顔。今後の訴訟の進め方については進行協議で話し合うことになった。
裁判後の報告集会で弁護団の川津知大弁護士が経過を報告。弁護団の頑張りに、傍聴した市民から拍手が起こった。
*その後の裁判所との進行協議を経て、第5回口頭弁論が10月19日(木)に開催されることになった。
2023年10月19日(木)14:30~ 第5回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*弁護団から、原告適格について、及び、沖縄県知事の判断(設計変更不承認)には濫用・逸脱があるとした国土交通大臣の裁決は誤りであり、違法であるとの主張を述べた準備書面の要旨陳述を行い、また、原告の渡具知武清さんが、前回できなかった意見陳述を行った。
渡具知さんは意見陳述の前に、国側代理人席に向かい、「あなた方は口を開けば『辺野古唯一』と言うが、私たちに一度でも説明したことがあるのか!」と厳しく問いかけた。大浦湾沿岸の瀬嵩に生まれ育ち、家族や子どもたちのために、この問題の当初から27年にわたって基地反対運動を続けて来た思い、生きる権利を切実に訴え、裁判所には、原告適格を認め、「正義にかなった判決」を出すよう求めた。満席の傍聴席の感動を呼んだ渡具知さんの言葉が、福渡裁判長をはじめ3人の裁判官の胸にも響いたことを祈りたい。
今回で結審か?という予測もあったが、裁判長は、原告適格について追加の陳述を求め、次回(第6回)口頭弁論が年明けの2024年1月23日(火)午後2時半~ 行われることになった。
2024年1月23日14:30~ 第6回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*まず最初に、原告の松田藤子さんが意見陳述を行った。沖縄戦で父を亡くし、家族6人を女手一つで支えた母の苦労、自らも体験した生活苦、米兵犯罪に怯えた恐怖の日々などが新基地建設に反対する「原点」となっていると語り、心を癒してくれる大浦湾の自然が破壊されていくことに、悔しさで心の中にマグマがうずく、と涙ながらに訴えた。しかし、傍聴席をもらい泣きさせた陳述も裁判長には届かなかったのか、傍聴席からの拍手を語調鋭く咎めた。
*続いて、原告側の白充弁護士が、原告ら第6準備書面の要旨を陳述した。前回で結審の予想もあったところ、裁判所が追加書面を求め、また裁判所の都合により期日が年明けとなり、その間に代執行判決の高裁判決が下され、国は代執行を行ったが、それを理由に裁判所が、住民に訴えの利益がなくなったという判断を下すことになれば、原告らに敢えて不利益になるような訴訟指揮をしたと批判されるのは必至だと、くぎを刺した。
福渡裁判長は今回も結審せず、原告・被告(国)ともに主張は出し尽くしているにもかかわらず、これまでの書面に「釈明点がないか精査する」などとして、次回期日を3月5日に指定した。不必要な審理の引き延ばしは、沖縄県が上告した代執行訴訟の最高裁判決を待ち、原告住民に「訴えの利益なし」との判決を下そうとしているようにも考えられる。
この日は沖縄にも寒波が訪れ、冷たい小雨混じりの悪天候だったが、多くの傍聴者があり、勇気づけられた。閉廷後の報告集会では、原告団・弁護団・傍聴者全員で「がんばろう!」と寒さを吹き飛ばし、前を向いた。
2024年3月5日(火)14:30~ 第7回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*代執行訴訟の高裁判決を不服として沖縄県が行った上告に対し、最高裁は2月29日付で「上告を受理しない」決定を下し、高裁判決(沖縄県敗訴)が確定した。上告内容の審理どころか、受け付けさえせず切り捨てた最高裁に対し、「司法は死んだ」と、怒りと抗議の声が上がっている。
*審理は新裁判長に引き継がれる
そんな中で開かれた第7回口頭弁論。「今回で結審か?」との見方もあったが、福渡裁判長は「これまでの書面を精査したところ、釈明を求めるべき点があった」として、次回期日に向け3点の釈明を求めた。「原告適格」について(原告・被告双方へ)、及び「(米軍の基準である)高さ制限」について(原告へ)のさらなる釈明、そして、代執行が行われ、代執行訴訟が終結した現段階での「訴えの利益」について(原告・被告双方へ)の釈明である。
次回期日は5月28日(火)14:30~に指定された。福渡裁判長は今期3月末までで異動となるため、次回から新たな裁判長のもとで審理が行われることになる。福渡裁判長は国寄りの姿勢が目立った(本訴訟のみならず)が、裁判長には、国におもねることなく審理を尽くしてくれることを願いたい。
2024年5月28日(火)14:30~ 第8回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*片瀬亮・新裁判長のもとで第8回口頭弁論が行われた。原告側は、代理人の白充弁護士が要旨陳述を行った。まず、住民の原告適格を認めた5月15日の高裁判決に言及し、「原告適格についての議論は尽きている」として原告適格を認めるよう求めた。前回期日で釈明を求められた、代執行訴訟終結後の「訴えの利益」については、「代執行訴訟の当事者は国と沖縄県であり、住民の訴えの利益は失われない」と主張した。
被告・国は、代執行(国が県に替わって承認)により、原告の訴える利益がなくなったとして訴えを退けるよう主張。片瀬裁判長は、一度は原告側に、高裁判決を踏まえた主張の補充、被告側準備書面に対する反論などを求めたものの、原告側弁護士から、高裁判決が原告側に有利な判決であった以上、これを覆したいと考えている被告・国の側からまずは書面を出すべきだと主張した。裁判長はこの主張を受け入れ、次回期日までに、被告・国の側から書面を出すように指示した。次回期日は9月10日(火)となった。
最後に、高裁判決で原告適格を認められ、本訴訟でも原告の1人である金城武政さん(辺野古在住)が意見陳述を行い、「この訴訟でも原告適格の議論は終わりにして下さい」、原告適格を認めるのに5年もかかり、その間辺野古の埋め立てが進む中で「違法な工事を1日でも早く止めるために中身の議論を早急に行う」よう訴えた。
この日は、台風1号が発生し梅雨前線を刺激して大雨となる中、多くの方が傍聴に来てくださったことに感謝したい。裁判所前での報告集会ができず、裁判所の待合室で弁護士さんからの説明を聞いたが、その間、裁判所職員らの威圧的な監視に怒りの声が出た。
*折しも、この日の口頭弁論が始まろうとする頃、「高裁判決に対し国が上告した!」との一報が入った。(「国の違法を許さない住民の訴訟」の項に詳述)
2024年9月10日(火)14:30~ 第9回口頭弁論(那覇地裁101号法廷にて)
*多くの方が傍聴にご参加いただき、傍聴席数を超えたため抽選となった。抽選に漏れた方にはお詫び申し上げるとともに、多くの参加が原告団・弁護団を大きく勇気づけて頂いたことに感謝したい。
*裁判所と原告代理人(弁護団)・被告(国)代理人とのやり取りは書面や法律の番号・記号が飛び交い、一般にはわかりにくかったが、弁護団の説明によると、国側は、「設計変更」は単に工事のやり方の変更に過ぎず、その承認・不承認は原告住民とは何の関係もない(したがって原告適格はない)と主張。次回、原告側はそれに対する反論を行うことになった。
*浦島悦子が原告意見陳述を行った。第3回口頭弁論において福渡前裁判長から陳述書の文言の書き換えを命じられたが、未だに納得していないこと、その後の国のやり方=代執行までして生物多様性の宝庫である大浦湾の工事を強行しているのは、福渡裁判長に「穏当でない表現」だとして書き換えさせられた「国家犯罪」という以外に言葉が見当たらないと、改めて片瀬裁判長に訴えた。
@この日の口頭弁論について、辺野古弁護団の川津知大弁護士に詳しい報告を書いていただきました。以下をご覧ください。
<第9回口頭弁論期日報告> 川津知大
2024年5月15日、福岡高等裁判所那覇支部にて、埋立承認撤回の取消裁決の取消訴訟について、那覇地方裁判所が原告適格無しとして却下した判決を覆し、原告適格を認める判決が下された(以下「高裁判決」という)。
現在那覇地方裁判所に継続している設計概要変更不承認取消裁決の取消訴訟(以下「本訴訟」という)では、高裁判決の理屈がそのまま当てはまるものとして原告適格が認められるか否かについて主張が繰り広げられている。
被告は、高裁判決自体がおかしいと主張するとともに、高裁判決は、あくまで埋立ての不承認を取消した裁決を取り消すことについての原告適格についての判断であって、埋立ての承認、不承認については、辺野古新基地を作る作らないに直接関わるが、他方、設計概要変更は、あくまで辺野古新基地を作るという前提の下、その埋立方法の変更を申請するものに過ぎないことから、高裁判決の論理が当てはまるものではない、と主張している。
その中身として、不承認取消し裁決の根拠の法令の規定は、不承認処分の根拠法令と同一であり、その根拠法令は公有水面埋立法13条の2・1項、4条1項1号及び2項と解すべきと主張している。
これに対し、次回期日までに、原告側より、高裁判決の論理が本訴訟にも当てはまること、根拠法令は公有水面埋立法13条の2・1項、4条1項1号及び2項に限られないこと等を主張する予定である。
次回期日は、2024年12月12日午後2時30分と指定された。